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2007 05,12 16:45 |
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「Where does this ocean go? sec:2 ガイの帰還」
過去編ガイ視点。 各人の視点を入れ替わりに書けたらいいなあと目論んでます。 感じたのは痛みより熱さだった。 自分の左腕に、焔の譜術が直撃したのだ、と、しばらくしてから気がついた。そういえば皮膚が焦げるような匂いがしたな、と、どこか他人事のようにガイは思った。 痛覚が戻ってきてやっと、その譜術はかなり加減されたものだったとわかった。 「…来ないでください、と言ったでしょう」 譜術を放った男は、気を失った、というよりは失わせたルークを片腕で抱いて、ガイを鋭く睨みつけた。 「あなたの存在はルークを傷つけるだけだ。それがまだわからないのですか」 ガイは苦い気持ちで眉を寄せた。 脅えるルークを、ただ抱きしめてやりたいだけだった。彼が昔、悪夢を見て泣いていたときのように。 全部悪い夢だったんだ、ルーク、何も怖いことなどないんだよ、と。 ルークにとって最も怖いものは、彼の最も近くに居た自分自身だった。 復讐を果たした自分は、それをすっかり忘れてしまっていたのだ。 扉の前で立ち尽くすガイをまるで空気のように扱い、ジェイドは丁寧な手つきで、ルークをベッドに寝かせなおした。 それを呆然と見ながらガイは、ああそれは俺の役目だったのに、とぼんやりと思った。ふつり、と胸の奥で、何か濁ったものが冷たい熱を持った。 そのことに気付いたのか、ジェイドはちらり、とガイの方に視線を寄越した。何かを探ろうとする紅い瞳に、居心地が悪くなる。 「…何か言いたいことがあるなら、ここを出てから聞きます。まずはその腕を何とかしないと、使い物にならなくなりますよ」 ガイは素直に頷いた。 部屋を出る前に、ちらりとルークを見た。自分を拒絶するように閉じられた瞳が辛くて、ガイはすぐに視線を逸らした。 死霊使いが冷たい瞳で、じっとその様子を観察していたのに、彼は気付かなかった。 そうして全てを知ったガイラルディアは、その日、死霊使いと三つの契約をして、愛しい焔の傍にいる権利を手に入れた。 Where does this ocean go? sec:2 ガイの帰還 久しぶりに戻ってきた白亜の都は、今は黄昏の光を浴びて金色の輝きを帯びていた。譜業の滝が鮮やかな光を撒き散らすその様は、もし詩人ならば、まるで楽園のようだと評しただろうか。 しかし、残念ながら詩人ではないガイは、単純に、綺麗だな、という感想を持つに留まっていた。 埃にまみれた彼の隣を、子供たちが走り抜ける。子供らだけではなく、街全体がどことなく浮き足立っていた。 鮮やかに飾られた町並みには、蒼を基調としたとりどりの布が家々から翻り、通りには屋台が立ち並ぶ。 水上の帝都グランコクマでは、まさに、建国祭の前夜祭が始まろうとしていた。 着飾った娘達がちらちらとこちらを見ているのに気付き、ガイは愛想笑いを贈って(黄色い悲鳴がこちらにまで聞こえた)、そそくさとその場を立ち去った。 美形とまではいわないまでも、それなりに異性を引き寄せる外見をしているだけの自覚はある。しかし彼にとって、目立つのは本意ではなかった。 マントの下からは、よく近づけば異臭がすることに気付かれただろう。返り血を拭っても、消えないにおいというものはある。 彼は自分に与えられた家へと、数週間ぶりに足を向けた。 出店を冷やかしながら通りを下っていく途中で、妙に目立つ二人連れを見かけた。 ぱっと見には恋人同士にも見えるが、動き方がどこかぎこちない。男の方は身のこなしからして明らかに軍人のようだったが、女のほうもそれなりに鍛えられた体つきをしているのが、ドレスの上からでもわかる。 別に軍人同士が恋人になることだってない訳ではない。女性の軍人というのも、男性ほど多くはないがそこそこの人数は存在するし、町を歩いていればそんな二人連れに出会うことだって、そこそこあることだ。 それでも彼らが妙に目立って、というか浮いて見えるのは何故だろうか、とガイは首をひねった。 銀髪の穏やかな表情をした男性と、黒髪の少女。少女の方は、女性にしては高身長だったが、男性も背は高い方だったので、バランスは取れていた。 年齢差はありそうに見えたが、ぎりぎりで犯罪というほどでもなさそうだった。 (目立つのは男のほうじゃないな。あっちも綺麗な見た目をしてはいるが、人目を引いているのはむしろ――) そしてガイは気がついた。どさどさどさ、と荷物が落ちる。 「ルセル、大丈夫ですか?」 「ええ、大丈夫です」 心配そうに気遣う男性の声に、聞きなれた声が答える。 知らなければ、ただの低い声の少女なのだ、と思い違いをして通り過ぎることが出来ただろう。 しかし残念ながら、ガイにはその声の主を、とてもよく知っていた。 「…ルーク?」 思い違いであればといいのにと願いながら、呆然と呟く。 (何であんな格好をして、いやそれよりもどうしてよりによってこんなタイミングで出くわすんだ――!) ガイは混乱のあまりに、その場から動けずにじっと二人を見つめていた。 すると不意に一瞬、少女と目が合った気がした。しかしすぐその姿は人波に紛れ、ガイはそのまま相手を見失った。 忘れるはずのないうつくしい碧の瞳は、確かにキムラスカの貴人の色を持っていた。 ガイは荷物を拾い上げ、足早にその場を立ち去った。 大股で歩く彼は、締め上げるならばどちらの悪魔が楽だろうか、と、そればかりを考えていた。 PR |
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