2025 04,17 04:28 |
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2009 06,21 19:23 |
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ガイルクという看板はずした方がいいんじゃないかと思い出した。
でも他の面々に恋愛感情は無いからガイルクとしかいいようがない。 なんというか、大変遅刻して申し訳ありません。 いつかの夜空に、よく似た場所だった。しかし、いまそこにいるのは、ルークのオリジナルではない。 夢の中でまで仮面を外さない少年は、顔を合わせるなり、理解できない、と肩をすくめた。 「何で自分のオリジナルのためなんかに、あんなふうに囮になったりできるわけ」 状況に慌てることもなく、会っていきなりそれか、とルークは溜息をついた。これは、ただの夢ではない。シンクはそれに、気付いているのか。 ルークが答えずにいると、彼は苛立ったように、何とか言ったらどうなのさ、と声を荒げた。 夜空は変わらず静謐に、全ての音を飲み込んでいく。飲まれそうな声が、小さく響く。 「お前は、僕とは違う…」 その声が妙にらしくなくて、ルークは眉を寄せた。シンクはそれに気付いているのかいないのか、ただ淡々と続ける。 「お前は預言を歪めて死ぬために生まれた。その意味を得た。だけど僕は、生み出された目的も果たせないで、ただ意味もなく生まれて、意味もなく生きている」 シンクは導師イオンのレプリカだ、と、ルークは何となく知っていた。本物の導師がどこにいるのかはルークも知らない。危険を冒してジェイドが迎えにいったイオンさえ、本物ではなかったというのに。 ルークは初めて、口を開いた。声音は思ったよりも平静だった。 「それが、あそこで譜術を発動させた理由かよ?」 ダアト式譜術、と呼ばれる譜術がある。ルークはそれを二度目にした。カースロットと呼ばれるそれを、シンクがルークに見せたのは、まだレガートと名乗っていた頃だ。彼はそれを、負傷したラルゴに対して行使した。 ルークはその効果を知らない。彼がシンクに教えられたのは、それがダアト式譜術のひとつであり、カースロットという名で、そして、――その譜術は、導師にしか使えない、ということだった。 何故シンクがそんな、自分の正体を明かすに等しいまねをしたのかは分からない。自分からの同情も憐憫も、連帯感さえも必要としていない彼の行動の動機として考えられるのは、嫌がらせ、だった。けれど何故、それだけの為に重大なリスクを見逃すのか、さっぱりわからない。 それでも、あの時――謁見の間でラルゴが王に鎌を振り上げたとき、ルークは見たのだ。シンクがずっと、何らかの譜術を発動させていたのを。 もっとも、『それ』がカースロットだと気付いたのは、たった今だったが。 「あんときはほんとに焦った…間にあわねえかと思ったんだぞ」 ルークがぶつくさいうと、シンクはしばらく呆気に取られていたが、すぐにいつもの皮肉げな調子を取り戻して言った。 「僕たちの苦労をすっかりご破算にしてくれようとしたからだよ」 嫌がらせだ。間違いなく。よっぽど嫌われてるんだな、とルークは思った。 「…ねえ。ほんとうに、どうしてあのとき、僕らについてきたのさ」 「うん? いつの話だ?」 「とぼけるなよ。お前なら、逃げようと思えばできなくもなかったろ、ホントは」 彼は星空を見上げたきり、一度もルークを見ていない。彼の気配はちっとも動きやしない。 「買いかぶり過ぎだって」 ルークは苦笑した。本当に誰も彼も、自分を買いかぶっている。ただジェイドの養子だというだけで。 「あのままさ」 「うん」 「ジェイドたちを行かせてたらさ、俺、家族を二人も失うことになってた」 「二人?」 シンクははじめて視線を夜空から外し、眉を寄せて聞き返した。ルークは、頷く。 「そ、二人。どっちも育ての親だけど」 まあ、向こうはちっともそんなこと思ってないかもしれないけどな、と付け足して、緑色の瞳は遠い星を見つめている。 「俺はレプリカだから、家族なんていないんだって思ってた。けど、違った」 シンクは黙って先を促す。 「陛下が前に言ってた。俺とジェイドは十分に親子だって。それに、言葉も何も知らなかった俺を、最初から育てたのはガイなんだ」 ルークは左腕で視界を覆った。目の奥がつんとしていた。 「ジェイドは俺のことを利用するつもりだったかもしれない。ガイは俺のことが憎かったかもしれない。だけど、…だけど、それだけじゃないって、俺は思いたかった」 向けられた笑顔を、差し出された手を、その全てを偽りだと否定することは、ルークには出来なかった。 全てを裏切ってでも守りたかった、冷たくて痛くて、それでも熱くてやさしい世界。 シンクはしばらく黙っていたが、やがて、ルークから視線を外し、ぽつりとつぶやいた。 「…お前は馬鹿だ」 ルークは、ああ、と肯定するしかない。シンクは、何もいわず、背を向けた。ルークはそれを視線だけで追う。 彼は二三歩離れたところで、小さく、呟いた。 「本当に馬鹿馬鹿しい。やっぱり、お前とはわかりあえない。だけど――」 シンクは、諦めたように、溜息をついた。 「認めるよ。僕は、お前が、羨ましい」 そうして彼の姿は掻き消えた。ルークは誰もいなくなった空間をしばらく見つめていたが、やがて、自分自身も目を閉じる。 目覚めのときは近かった。 目に覚め行きて、夢渡り 妙にひんやりとした空気が頬を撫でる。 堅固で質素なつくりの、そこはどうやら牢獄のようだった。饐えたにおいが鼻について、ルークは顔をしかめる。 笑い出したくなる事実だが、これが現実だ。何も考えずに、ただ反射的に行動した結果がこれだ。 (アッシュたちはちゃんと逃げきったんだろうか) 囮になった自分が捕まっただけならまだしも、本命まで捕まっていたら、ちょっと冗談にもならない。 妙な倦怠感が全身を包んでいる。不愉快を通り越して不快だ。 目蓋を下ろすと、自然と眠気が襲ってきた。今度は夢を見なかった。 人の気配を感じて目を開けた。 「どうしてこの状況で寝ていられるんだか、不思議でならないね」 シンクだった。 「またおまえかよ」 「何言ってるのさ」 混濁した頭の中で、夢と現実がまぜこぜになる。 ようやく意識がはっきりしてきたルークの目の前にいたのは、良く言えば意志の強そうな顔の少年だった。立てていた髪を下ろし、いつも顔を隠している仮面もない。 はじめて見るその素顔をまじまじと見つめていると、シンクは嫌そうな顔をした。 「人払いをしている。話したいことがあってきた」 「何だよ。マルクトの機密なら言わねーよ、第一言えねえし」 「そんなことははなっから期待してないから。そうじゃなくて」 シンクは、ぐい、と右手で前髪を上げた。ルークは息を呑んだ。 シンクの白い額に、不自然な文様がある。淡く明滅するそれにどこか既視感を覚えて、彼は内心首をひねった。 「お前あのとき、僕に何をした」 「は?」 「とぼけるな。お前、何を呼んだ」 「いや、だからお前、何言ってんだよ」 シンクは見定めるように、冷たい緑の目を細めた。 「嘘をついても得は無いよ」 「だっから何言ってんだよ、お前」 苛立ち交じりのルークの言葉には、嘘がないと判断したのだろう。シンクは下ろした手をそのまま組んだ。 「今の状況だけどね」 「ああ」 「お前を殺して、宣戦布告の理由にすると、モースが主張してる」 「ああ?」 「つってもそのモース自身も軟禁されてるけどね」 シンクは、いい気味だ、とばかりに口の端を吊り上げた。 「何でんなことに?」 「ラルゴが大暴れしたその責任だよ」 「なるほどな…って、じゃあ何でお前はここにいるんだ?」 「それは、僕の指示だからだ」 何でもないことのようにいうシンクに、ルークは苛々として尖った声を出した。 「だから、どういうことだよ、それ」 「何で僕がこんな格好をしているのか、ちょっと考えればわかることだろ」 ルークはそれで、やっと納得がいった。そして、眉を寄せる。 「えげつないことするな…」 「ふうん? 命の恩人にそんなこと言って、良いわけ」 「はあ?」 「お前を宣戦布告の理由にする、って言う考えを持ってるのは、なにもモースだけじゃないってこと」 ルークは押し黙って、少し俯いた。何の意図があってかは知らないが、つまりシンクはルークを庇っているのだ。 「…お前はいったい俺に何をさせたいんだ」 「手を組まないか」 はあ? と声を上げて、ルークはまじまじと、目の前の少年を見つめた。イオンと同じ顔をした彼は、鋭い目をルークに向けている。 「僕はここからお前を出す。だからお前は、僕の為に働け」 「…っていわれてもな。具体的に何するんだよ」 「それは後で話す。受けるか、受けないか。まあ、受けないんだったら…わかりきってるだろうけど」 シンクは意地の悪い笑みを浮かべた。その笑みがあまりにも気に食わない、が、今、ルークの生殺与奪を握っているのは確かにこの目の前の少年なのだった。 「受けるよ。受けりゃ、いいんだろ」 シンクは、契約成立だ、と言って、牢の鍵を取り出した。その周到さに舌を巻く。 「やなやつ。はなっからわかってたのかよ」 シンクはそのルークのつぶやきに、聞こえないふりをした。 城内の人間の奇異の視線を浴びながら、ルークはシンクのあとをついていった。 「シ…じゃなかった、イオン、どこに行くんだ」 「謁見の間だよ」 話は終わりだ、とばかりに無愛想に打ち切られ、ルークは引き下がった。 シンクの意図が全く読めない。 自分より低い場所にあるシンクの頭を見ながら、何故かルークは、昔ジェイドに雪山へと連れて行かれたときのことを思い出していた。 (…ん?) 雪山。何か、引っかかるものがある。 (何だっけ) あそこで見たようなものを、最近、またどこかで、見なかっただろうか? もう少しで思い出せそうなのに、なかなかその答えが出ない。悩んでいるうちに、前に立っていたシンクがぴたりと足を止めて振り向いた。 「これからお前は、何も余計なことをしゃべるなよ」 そうしたら悪いようにはしない、といわれて、ルークは気圧されたように頷いていた。 もうどうにでもなれだ。ルークは覚悟を決め、先を歩くシンクを追った。 シンクは王の前で礼を取り、ラルゴとモースの件について正式な謝罪を行った。 彼らの処断は教団側が行う、という申し出についても、国王は渋々ながら認めた。ラルゴはモースの命令で動いたことになっているらしいということには、薄々ながら気付いていたが、シンクは一体彼らをどうするつもりなのだろう。 「そして彼の処断なのですが、それも僕に一任していただきたい」 ざわり、と空気が動く。ルークはしばらく、それが自分の処遇について語られているせいなのだと、わからなかった。 「それは承服できかねますな」 「何故です?」 大臣のひとりの言葉に、すぐさまシンクが反駁した。 「彼を失うわけにはいきません。大罪人といえど、無為に殺して何とします」 ルークは隣に立つシンクを盗み見た。平然としている彼がどこか羨ましくもあった。 「事態は既に動き始めている。止めることはできないのです。あなたもご存知の筈だ」 「ええ、知っています。だからこそ、申し上げている。預言のために、彼にここで死なれては困る」 「…どういうことですかな、導師」 シンクは少し目を伏せた。それだけで、愁いを帯びた美少年の像がそこに完成される。 「アクゼリュスの崩落は、正しく行われなかったのです」 「な、…どういうことですか、それは」 「彼は、本来の手順を踏まず、アクゼリュスのセフィロトをただ破壊してしまった。このままでは、その綻びから、周囲の大地の全てが壊れてしまう――しかも、ホドの惨劇とは、比べ物になりません」 ホド、と聞いて、一瞬ガイの顔が脳裏をよぎった。もう何年も、会っていないような気がした。 高官たちや国王の動揺を、どこか遠い世界のことのように眺めていた。 「このままでは、この外殻大地全てが、魔界に墜ちます」 「そんなばかな! 最高の繁栄を約束された筈が――」 「それでも、事実なのです。本来ならば本当のルーク殿もきっとローレライの導きに従って、正しく命を全うされたでありましょうに…配下の暴走を抑えられなかった僕の責任です。ですから、僕に、挽回の機会をいただけませんか」 ルークは、ただただ、呆然としていた。目の前ではキムラスカの高官たちがせわしく視線を交わしあい、王の判断を待っている。 王は苦渋の表情で、一日の猶予を請うた。シンクは諾った。ルークはそのとき、シンクの勝ちだな、と思った。 次の日、王は、監視をつけることを条件に、ルークを牢から解き放つことを決定した。 |
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