2024 11,23 16:01 |
|
2008 08,03 17:49 |
|
Where does this ocean go?
sec:3 傷跡 久々過去編。 やっとガイルクらしいガイルクかと。 ※服の生地がどう考えてもシフォンじゃなくなってるのはルークが抵抗したからです。 その日俺は、はじめて知りたいと思った。 ほんとうの、彼の姿を。 Where does this ocean go? sec:3 傷跡 少女の姿をして、腰に巻いた布の下には剣を隠している。不審人物扱いだ、普通なら。 警備の兵士の姿は多い。キムラスカとの関係が、緊張状態にあるからだろう。 先ほども顔見知りの姿を見つけた。向こうはこの姿のせいか、こちらの存在には気付かなかった。 気付かれていても困るのだ。だってもしばれていたら、不審人物扱いはさすがにされないだろうが、切実に泣きたい。 フリングスは揉め事があったと呼び出されて、どこかに行ってしまったから、今はひとりだ。 がり、と先ほど出店で買った、蜜漬けの甘酸っぱい林檎をかじりながら、レガートは辺りを見回す。 闇が落ちるにはまだ時間がある。 ちらちらと向けられる視線に気付いていたが、全て無視して、水道橋から流れ落ちる瀑布をぼんやりと見つめていたら、突然声をかけられた。 「お嬢さん、こんなところで一人でどうしたんだい?」 ついに声をかけてくるやつが現れたか、とレガートは内心、溜息をついた。だが、どこかで聞き覚えがある声だ。 レガートは振り返って、眉を顰めた。 「変な仮面を被ってるん…のね」 「祭りだからな」 声の主は男性だった。髪の色は金で、身長は自分よりも大体十センチほど高いのだろうか。 均整の取れた体つきをしているが、その顔だけは、奇妙な仮面で隠されている。 「きみはさっきからここで何を? どこにも遊びに行かないのか」 「人を待ってる」 男の問いに、先約がいる、と匂わすと、彼は、それは残念だった、と大して残念そうでもなく言った。 「少し話をしても?」 なかなかあつかましいやつだ、とレガートがあきれていると、青年は、 「ああ、悪い。彼氏に勘違いされたら困るよな」 と笑い含みに撤回した。レガートは、別に彼氏じゃない、と心の中だけで反論した。そもそも俺は男だ、とも付け加えた。 そのとき、こちらに向かってかけてくる足音が聞こえた。フリングスが戻ってきたのか、と思って振り向くと、別の、見慣れた兵士が走ってくる。 先ほどフリングスを呼びに来た同僚だ。 「彼氏の登場かな」 違う、とレガートはいいかけたが、そのときにはすでに男はいずこへと姿を消していた。 「やっと見つけた。わるいな、待たせて」 申し訳なさそうな顔をしている同僚に、レガートはいや、と首を振る。 「別にかまわねえよ。で、フリングス大佐は?」 「それが、最初の騒ぎを聞きつけたファンに囲まれてさ…」 あの人も難儀するよなあ、と笑う同僚に、確かにな、と相槌を打ちかけ、 「…っておい、じゃあ俺どうすんだよ?」 はたと自分の置かれた状況に気付いて、同僚に剣呑なまなざしを向けた。 「まあ、適当にパトロールしてりゃいいんじゃね? お前なら変な男に捕まろうが、あっさり返り討ちにしそうだし」 「やめろよ気持ち悪い…」 「はは。いいじゃないか、案外にあってるぜ」 「うれしくねー」 じゃあ俺持ち場あるから、とあっさりと手を振って同僚は去っていった。恨みがましく背中を睨みつけても、どうしようもない。 それもこれも陛下とジェイドが悪いんだ、と今日何度目かの溜息をついたところで、ふいに、背後に気配を感じた。 「ふられたみたいだな」 「あんた…、いつからそこにいたんだよ?」 さっきの男だった。やはりどこか懐かしいような気がする声だ。 そのせいだろうか、警戒しなければと思うのに、それ以上に身体が動かない。 男はいつの間にか、レガートの隣に並んで、そうして先ほどのレガートと同じように、水道橋を見上げた。 白亜の街に、黒の服に黒の仮面の男。危険防止の柵にもたれたその姿は、非常に浮いているようで、それでいてどこかしっくり来る景色だった。 「グランコクマにくると、いつも帰ってきた、って気持ちになるんだそうだ」 男はぼそりと呟いた。レガートは男から視線を外して、同じように流れ落ちる水を見る。 「彼の故郷は随分昔になくなって、その次に住んでいた所は彼が住めなくしてしまった」 「住めなくした…?」 伝聞形のその言葉が妙に引っかかって、鸚鵡返しに問い返す。 男はくちびるを歪めて笑った。 「燃やしたんだよ」 レガートはちらりと男の様子を窺った。仮面の下の表情を、知ることは勿論出来ない。 それでもその下にある顔は、何故か、幼馴染と思っていたあの男と重なる気がした。 「…どうして?」 男がくつ、と笑った気がした。 「復讐のためだよ」 「ふくしゅう」 男の言葉を、頭の中で反芻する。 ――その言葉を理由に、戦う術をくれるとジェイドは言った。 そうしてそれに従って、レガートは力をつけた。…だが。 「ああ。彼は少なくとも、そう思ってた」 ふと、男が見ているのは、水道橋ではない、もっと遠くにあるものだと、レガートは気付いた。 視線の先を固定したまま、男は続けた。 「だが本当は違った。半分は復讐のつもりだった、しかしもう半分は…」 それきり、男の言葉は途切れた。不審に思ったレガートが、声を発しようとした瞬間、男ははじめてレガートの顔を正面から覗き込んだ。 仮面の奥に光る、ふたつの青い瞳。しかしあの日に見た、冷たい青さではない。 「もう半分は?」 男は、ちいさく笑って、答えた。 「守るにはそれしかなかった」 「守る? …何を」 男はそれきり答えず、また水道橋に視線を戻した。 ざあざあと雨のように降り注ぐ音。また少し近づいた夕暮れが、橙色に飛沫を染める。 「あんたは、誰だ?」 「そうだな。答えは、次に会ったときにでも」 いいながら、男は柵から身体を離し、そのままレガートの隣を通り過ぎていく。 「おい!」 「またな、レガート・ミルテ」 呼び止めにも耳を貸さず、ひらひらと手を振って、彼の姿はあっという間に、人混みにまぎれていった。 ガイ。 誰よりも仲のよかった、幼馴染。 …少なくとも、レガート自身は――幼いルークは、そう思っていた。 あの日彼が、ルークから、生命以外の全てを奪っていくまでは。 ルーク・フォン・ファブレの父であるファブレ公爵が、戦功という名の殺戮を、繰り返していたことを知ったのは、ジェイドに引き取られてからだった。 あの屋敷にいた頃は知らなかった。父の両手が他人の命を奪うことで、その地位を保っていたことを。 軍人であるというのは血に塗れて生きるということだ。それはレガートを引き取ったジェイドにも言えることで、実際彼が様々なところで、仇として、命を狙われるのに出くわしたこともある。レガート自身がそのとばっちりを食ったことも。 ガイもまた、その中の一人だったのかもしれない。 憎しみを隠して、隠して――普段それをおくびにも出さずに生きていた彼は、一体どんな目で、自分のことを見ていたのだろう。 ジェイドはいつか、復讐のために力をくれるといった。だけど、とレガートは思う。 ファブレ公爵も被害者で、彼を殺したガイも被害者で。 仕方ないとはとてもいえない、思えない。けれど。 (でも、それなら、何のために俺は復讐しなければならないんだ?) 長いスカートの下に隠した二振りの鋼は、いつだって重い。 PR |
|
コメント |
コメント投稿 |
|
trackback |
トラックバックURL |
忍者ブログ [PR] |