2024 11,23 16:07 |
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2009 06,21 19:20 |
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ウイルス怖いのでブログ方面に避難。
だいぶ思ってたのと違う方向性になっている。 再び苦痛。ルークはまた、自分の身体が、ひとところに集められようとしているのを感じた。 どさり、とおちて、柔らかいものの上に着地する。ガシャン、と何かが砕ける音と、ぐ、と身体の下から悲鳴。ついで、背後から、誰かが息を呑むような気配。 そこはきらびやかな室内だった。どう見たって強力なフォンスロットがあるようには見えないな、とルークは内心首をひねる。それに、今回は身体がこぼれていくような感覚がない。試しに両腕をまくって確かめてみたが、透けていなかった。そのことに少しだけほっとする。 見覚えのない風景に、とりあえず状況を確認しようと室内を見回しかけ、そこで押し殺したような怒声を、ルークは聞いた。 「貴様…はやくそこからどけ!」 その呻き声は、ルークの尻の下の生き物が発生源だった。あわてて、悪い、と謝りつつそこから立ち上がる。そうして目に入ったのは、自分と同じ顔だった。 思わず、うげっ、とルークは声を上げる。その瞬間、どうにか立ち上がった目の前の男の機嫌が、さらに悪くなった。 「え、なんでアッシュ?」 「それはこっちのせりふだ」 途端、アッシュは苦い顔になる。その隣で俯く女性の面差しに、どことなく見覚えがあるような気がして、なるほど、とひとり頷いた。 以前会ったときよりも大人びているが、彼女がナタリア王女だろう、と判断し、ルークはひとり頷く。 「なるほど。これはお邪魔だったかな」 ぼそりと呟かれた言葉を聞きとめ、アッシュの眦がきりきりと吊り上げられた。 「うるさい。大体、何で貴様がここにいる」 「むしろそれ、俺が聞きたいよ。さっきまで教団に居たのに、何でこんなとこ…」 言いかけてはたとルークは気がついた。 確かアッシュは、バチカルに連れて行かれたナタリア王女を追った、という話ではなかったか。 やや顔を蒼褪めさせながら――そして、どうか否定してくれと願いながら――ルークは恐る恐る、目の前の仏頂面に尋ねる。 「…おい、まさか、ここって、キムラスカか?」 ふん、と傲慢に鼻を鳴らし、キムラスカの王族は、あっさりと肯定した。 「キムラスカの首都、バチカルだ」 敵陣真っ只中である。 アッシュとルークは、時折――主にアッシュが――罵倒を交えながら、互いに状況をかいつまんで説明した。もう一人の当事者たるナタリアはほとんど黙っていたが、その理由が明らかになるにつれ、ルークは顔色を失っていった。 「んなばかな」 がしがしと頭をかく。複雑に入り組んだ状況が示す結果は至って単純であり、なおかつ、最悪に近かった。 つまり、本物のルークであるアッシュとキムラスカの先遣隊は、アクゼリュスで罠に嵌められて死んだということにされ、いまここにいるアッシュは周囲、とくに中立の立場であるローレライ教団の導師イオンを欺くために用意されたレプリカルークということにされ、偽の姫だったことを知って、筋違いにも王を恨んだナタリア姫が、ジェイドと結びついて国と婚約者を裏切ったことになっている、という回りくどい理由による、戦争状態への突入である。 ルークに言わせれば、あの皇帝がそんなめんどくさいまねをするかよ、となるのだが、それはキムラスカの側にはわからないことである。 なまじ、ファブレ家事件の際に、緘口令を敷くより先に情報が漏れ、レプリカルークの存在が広く一般に知れ渡ってしまったことで、今回の突拍子もない話を突拍子もないと周りが思わなかったことに問題があった。ジェイドがレプリカ技術の開発者だということも、噂に信憑性を与えたのだろう。 よって結論はシンプルだ。留まっていれば殺される。 「っつーことは、とりあえず、ここから逃げないとどうにもならないってことか」 ルークはちらりとキムラスカの王女に視線をやった。流石にバチカルでしばらく育っていたとはいえ、屋敷から出たことのなかったルークは、王城の内部構造を知らない。 王女は唇を噛み締め、顔を蒼白にしている。父親と慕ってきた男に裏切り者といわれたのだから、無理もないことだとはルークも思う、が。 「殿下。ここから出来るだけ人目に付かず、抜け出す方法ってありますか」 彼女は答えない。目の焦点が合っていない、とルークが気がつくより早く、アッシュは動いていた。 「ナタリア。ここから逃げるぞ」 肩を叩きながら言われ、ナタリアはゆるゆると視線を上げた。どこか虚ろな表情に、ルークは顔をしかめる。 「行く…とは、どこへですか」 「どこへでもだ。もしここで死ねば、陛下の誤解を解くことも出来ん」 まるで全ての感情を忘れてしまったかのようなナタリアに、力をこめてアッシュは言った。 「誰が偽者だといおうが、キムラスカの王女はお前だけだ。俺の婚約者もだ」 「…でも、お父様は…」 姫君の顔は晴れない。ルークはじりじりしていた。早くしなければ、誰かがこの部屋を見に来ないとも限らない。そうなってしまえば手遅れなのだ。 ちらり、とルークはアッシュを見た。それに気がついたアッシュは、黙ったまま目を伏せた。 自分では出来ないってか、と、ルークは渋い顔をしたが、音もなく移動し、ナタリアの背後に立つ。俯く彼女には、その姿は見えなかったはずだ。 「ごめんな…っと」 謝りながら、首筋に手刀を当てた。くずおれるナタリアの身体を、アッシュが抱きかかえる。 いくらアッシュが手練とは言え、人間一人抱えて逃げるのは至難の業だ。しゃーねーな、とルークは内心溜息をついた。 「じゃあアッシュ。頑張って逃げろよな」 「どういうことだ?」 訝しげな顔をするアッシュに、ルークは唇の端を吊り上げ笑う。 「時間稼ぎをしてやるよ。…お前には借りもあることだし」 「貴様なんぞに何かを貸した覚えはないがな」 不機嫌そうに悪態をつくアッシュは、ナタリアを横抱きにして、ルークの隣をすり抜けた。無愛想なその態度は、でも拒絶ではないんだろう、とルークは前向きに解することにする。 「人の親切は素直に受けとけって」 「貴様の助力などいらん、といいたいところだが…仕方ない。何をしようがかまわんが、」 アッシュは、ルークに背中を向けたまま言った。 「足を引っ張るなよ、屑」 (足を引っ張らないでくださいね、ルーク) 相手には見えていないとわかっていながら、ルークはかすかに漏れる苦い笑いを抑えた。 他のところには全く共通点なんて無いように思えるのに、こういうときの言い回しは、アッシュもジェイドも、何故かよく似ている。 「お前こそ、逃げるの失敗なんかするなよな」 そういって、ルークも、自分の進むべき方向へと歩き出した。 白光騎士団が民衆と共に暴動を起こした、という知らせが王の間に伝えられたとき、王は頼るように、大詠師に視線をやった。 先ほど、自分の娘とずっと信じていた子どもに、自殺するようつたえたばかりの王は、心から疲弊しきっていた。もう何も考えたくなどなかったが、緊迫した状況がそれを許さない。 謁見の間にいるのは王のほかに大臣と、大詠師、その護衛の六神将の二人であった。 キムラスカ王インゴベルトが、兵を動かす決断を迫られたとき――彼は、謁見の間に飛び込んできた。 王は大きく目を見開く。その少年は、キムラスカの王族の証である、鮮やかな赤い髪に、爛々と輝く緑の目を持っていた。自分の娘の――娘と思っていた子どもの、持ち得なかった色だった。 先ほど彼が、自分の娘と共に、死刑宣告を下した相手だ。死んだ自分の妹に、よく似た顔をした少年。 ルーク・フォン・ファブレは、ちらりと部屋を見回した後、きっと、大詠師を睨みつけた。 「お前がローレライ教団の大詠師、モースだな」 その言い回しに、インゴベルト王は違和感を感じた。同時にその正体に気づいたらしいモースは、驚愕を隠さずに、しかし傲岸な態度で言った。 「貴様は…レプリカルークか?! 何故まだ生きている」 「あいにくと、ローレライは俺の死を望まなかったからな」 その意味を理解して、呆然とするインゴベルトの視線の先で、少年はすらりと抜刀した。変わった形状をしたその切っ先をモースに向け、朗々と告げる。 「預言に逆らい、ローレライ教団の導師を騙し、戦争を引き起こそうとするその罪、万死に値するぞ」 「世迷言を。貴様こそ、アクゼリュスを落とした張本人めが何を言うか」 その瞬間、少年の身体から怒気が立ち上るのが目に見えるようだった。大詠師は一瞬怯んだが、すぐさま控えている六神将の二人に、命を下す。 「預言を乱す愚か者に断罪を」 殺到する気配に、ルークはしかし、戦闘の構えを解いた。そしてそのまま、手に持った剣を逆手に持ち替え、垂直に石畳の床へと突き立てる。 切っ先は音もなく、僅かに地面に吸い込まれる。次の瞬間には、そこを中心として、床の上に、青白く明滅する、難解な模様が広がっていた。 六神将の二人は、地に足を縫いとめられたように動きを止める。誰もが息を呑むような、凄絶な光景が広がっていた。 「俺は自力では、超振動は起こせない。けど、」 青白い光に照らされるレプリカルークに表情はない。これは人の、人間の姿ではない、と、インゴベルトは本能的に恐れを感じた。 「この城を吹き飛ばすくらいなら楽勝だ。――どうする? 次はこのバチカルを、アクゼリュスと同じ姿にしてみるか?」 明滅する石造りの床から、力を持った風が吹き上がる。ばたばたと髪や衣服を巻き上げる魔性の風に負けぬ声で、インゴベルトは叫んでいた。 「何が望みだ…!」 「陛下!」 モースが振り返りざま、王を睨みつけて責めるような声を上げる。その声に一瞬身体を震わせるが、しかしインゴベルトは少年から視線を外さない。 ルークは言った。 「王女とアッシュのことを見逃してもらうぜ。ついでに、戦争準備もやめてくれ」 「…王女の件は呑もう」 「陛下! なりません!」 インゴベルトの返答に、モースは声を荒げ、ルークの視線の険しさが増す。が、流石に今はこれ以上の譲歩を引き出すのは無理だと悟ったのだろう、彼は地面から剣を引き抜いた。 吹き荒れる風が次第に収まり、少年が小さく息をついた。その刹那だった。 ちら、と赤い光が瞬いた。吸い寄せられるように、ルークがそちらに視線をやったとき、それまで沈黙を保っていたラルゴが、突如王座へ向かって走り出した。ただならぬ気配を感じ取ったルークは、再び剣を構える。その視界の中で見つけた、…見つけてしまったものを、きつく睨みつけて。 「何を、」 大鎌が振り上げられ、国王の緑の瞳に、そのぎらつく刃が映る。振り下ろされようとするそれを押し止めるかのように、再び謁見の間に光が溢れた。 PR |
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