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「獣の会話」
ガイとジェイド ルークに復讐をされたいけどされたくないガイラルディア 初出:2006/8/5 獣の会話 夜闇の中から現れたのは、やや淡い金色の髪をした男だった。 一見穏やかそうなその風貌はしかし、内側にどうしようもない狂気を孕んでいるのを、ジェイドはよく知っている。 「ルークとの話も全部聞いていたんでしょう。…どう思いますか」 ガイラルディア・ガラン・ガルディオスは、人好きのする笑顔の面を被り答えた。 「本当だ。試しに尾行したがことごとくまかれた。…だがおそらく痕跡からすると、ダアトの人間だろうな」 青い瞳が月光を冷たく反射し、心なしか闇に溶けているように見える。ルークが白の伯爵というならさしずめ彼は黒の伯爵だろうか、とジェイドは心の中で密かに毒づいた。そして自分の思考の持つあまりの皮肉さに気付き、唇の端が自然と歪む。失われた筈のガルディオス家は、伯爵位の家柄だ。 ガイラルディアは言うなれば、真剣に狂った男だった。ファブレ家の殆どの人間を狩り尽くした彼の執着は、まだ幼いルークへと一身に向かっている。 彼はルークが自分の目の前から消えた後、恐ろしいまでの妄執によって、その居場所を突き止めた。 月の無い夜半に自分を襲撃したときの彼の第一声を、ジェイドは数年を経た今でも鮮明に覚えている。 「あなたはグランツ謡将との関係は切れているんでしたか」 「ああ。俺がファブレ家を燃やした時にな」 何でもないことのようにあっさりと答えたガイに不快感を覚えながら、それをおくびにも出さずにジェイドは考える。 レプリカルークを作ったのはおそらく、『行方不明』とされた彼を最初に発見したヴァン・グランツだ。その目的はわからないものの、彼が戦争推進派である大詠師モース派であることを考えると、おそらくはオリジナルルークの力を残すためなのだろう。 ルークの持つ超振動の力は不完全だが、おそらくそれは彼が能力が劣化したレプリカであるからで、オリジナルルークはそれを少なくとも、完全とは行かなくても、ある程度は自分の意志で制御できるに違いない。でなければ駒としては使えない。 今回のことにピオニーがルークを関わらせなかったのは、キムラスカ側が、彼が生きているということに気付くことを恐れたせいだろうとジェイドは思っていた。もし万一その存在が向こうに知れれば、マルクトにとっては大変ありがたくない状態になることは目に見えている。とはいえ、それは既に手遅れだろうと言うこともわかっていた。キムラスカとダアトのつながりは、すでにとても明白だった。 しかし、だからこそ今までも巧妙にルークの存在は隠され、そしてこれからも隠される予定だった。影の指先としての二つ名が通ったのは誤算だったが、それはあくまで『黒髪のレガート・ミルテ』としてのそれだった。彼の本来の髪の色は、自分ですらここ数年目にしていない。 それが今日のことで、すっかり計画が狂ってしまった。 六神将はレガート――レプリカルークの存在に気付いただろう。しっかりと声を聞かれ、顔まで見られているのだ。彼らは愚か者の集団ではない。ましてやその中にはオリジナルルークまで名を連ねているのだ。同僚と同じ顔で同じ声、まさかそれでおかしいと思わないほうがかえって不自然だろう。 この調子では彼の正体が完全にばれてしまう日も、そう遠くはなさそうだった。何せどうやらオリジナルルークにさえ、見破られてしまっているようなのだ。他の六神将と折り合いの悪いらしい彼ではあるが、この先どう転ぶかはわからない。 しかし、皇帝から極秘の勅命を受けている上に、封印術をかけられてしまった自分では、ルークを守ることは不可能だった。だから、非常に不本意ながら、ガイラルディアを呼んだ。 ジェイドはこみ上げる不愉快さを呑みこみながら、代わりの言葉を吐き出した。 「ヴァン・グランツ、及びその配下である六神将が、ルークを狙ってくる可能性があります」 「誰が来ようと関係ない。俺はあいつを守るだけだ。…これで満足か?」 即座に先回りした答えを返してくる男に、ジェイドはくつりと笑った。全く、相対しているだけで背筋の寒くなる人間だ。 「うっかりルークの前に姿を現さないでくださいね。初めて会ったときのようになったら大変ですから」 「…用がそれだけなら、俺はもう行くぞ」 踵を返そうとする男に、ジェイドはもう一つだけ、と声をかけた。 「ルークはオリジナルルークに、復讐をしたくないと言いました。あなたはそれをどう思いますか?」 男は首だけをこちらに向けて、しばし黙り込んだ。青い瞳が獣のそれのように爛々と光っている。 やがてその唇が動いた。 「…それでいいさ。あいつはそんな、汚いものを知る必要なんかないんだ」 その響きにどこか自分に言い聞かせるようなものがあったのは、おそらくジェイドの聞き間違いではないだろう。 ルークを裏切ったガイラルディアは、そのせいで自分の心を裏切っている。つまりはそういうことだった。 闇に溶ける男の背中を見送りながら、ジェイドは胸の中で、青年にかつて言われた言葉を反芻した。 俺のルークを返せ。 反吐が出そうだ、と思った。その感情は今でも変わっていない。 青年の左腕を譜術で灼いた日、ルークはガイを見るなり脅えて錯乱した。気を失った彼を抱えて、焔の譜術でガイを追い払ったのは、しかしルークのためだけではなかった。 蒼褪めた子供を抱いたときほど、自分でも制御しきれぬどうしようもない衝動を、ジェイドはそれまで一度だって覚えたことは無かった。 全く、執着とは恐ろしいものだ。 PR |
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