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2007 04,22 20:11 |
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「折れた牙、失くしたぬくもり」
「逆さまの地図~」後のジェイド一行 初出:2007/3/15 ジェイド 折れた牙、失くしたぬくもり 「…ぼーっとしていても仕方ありません。次の行き先を決めましょう」 ジェイドがそう告げると、様々な反応が返ってきた。困惑したような視線もあり、憎悪に滾る視線もある。皆さん実に感情的でお若いことだ、と心の中で呟く。 「レガート一人裏切ったくらいで、既に事態は動き出していますから。今更進路の変更など出来ないでしょう、親善大使殿?」 もっとも鋭い視線を向けてくる赤毛の青年にそう問えば、彼はいかにも気に食わないといわんばかりの顔をした。隣で事態が飲み込めずびっくりしているナタリア姫が、哀れにも思える。 「さて、ではどうします? 姫を王宮に返して、海路をとるという手もありますが――」 アッシュは、本物のルークは、しかし首を縦には振らなかった。 「いや、陸路を取る」 ナタリアの表情が明るくなった。実に甘いことだ、と内心うんざりしながら、それでも笑顔を崩さずに、ジェイドはわかりましたと答えた。 レガートと自身の関係に対して、興味津々の若者達を適当にあしらいながら、ジェイドは思索に耽った。 レガート、もといレプリカルークとの関係は、一応保護者という立場にありながらも、それほど親密であるとはいえなかった。彼はジェイドよりはむしろフリングスやピオニー、そして年齢の近い同僚たちとのほうが、ずっと仲が良いように見えた。 それを不満に思ったことはない。べたべたと親子ごっこをするのはジェイドの趣味ではないし、そして向こうもそうだと思っていた。多忙なジェイドは彼に構ってやることもあまり出来なかった。それでも自分の配下にあったときはそれなりに会話もしたが、隊が移ってからは、同じ家に住みながら一週間会わないということもざらにあった。 彼はいつごろから裏切っていたのだろうか。少なくとも家でそれらしい素振りを見せたことはなかったし、そんな噂が入ってきたこともない。 やはりあの日、彼が六神将に浚われたときに、何らかの接触があったに違いない、と思う。しかし、彼が助けに来たタイミングは、偶然にしては良すぎた。 疑い出せばきりがないのだ。それに、そもそも証拠が少なすぎる。思い込みによる憶測は、何よりも危険だ。ジェイドは一度そこで考える事をやめた。 代わりのように、密かに嘆息する。 結局、自分の育てた子供であろうとも、疑うことしか出来ないのだ。そんなことで自己嫌悪に陥ったりはしないが、やはり自分には感情が欠けているのだと痛感する。 ジェイドが一歩足を進めるごとに、しゃらしゃら、と、二種類の軽い音がする。ほんの数分前までは気にもならなかったのに、今は酷く耳障りに思えた。 それはレガートがジェイドに預けた二振りの短刀が奏でる音だ。譜術を使えない彼のために、もう一振りの大剣と共にジェイドが与えたものだった。 銘のあるそれなりの剣に改造を施した『ソルヴェイグ』と、その試作型の『シュヴァルツ』と『ヴァイス』。それらは音素を安定させるためのアクセサリと共鳴し、彼の特殊能力の制御装置として働いていた。とはいえ、彼はすぐにソルヴェイグ一本での制御に成功したため、試作型が使用されることは少なかったが。 場合によれば、レガートを殺さなければならないかもしれない。彼を守るために用意した牙で、彼を貫かなければならないかもしれない。 皮肉なものだ、とジェイドは酷薄に嗤う。 視界の端に、暗い表情をしているガイラルディアが映る。どうやら彼は、レガートにナイフを投げつけられたことに、かなりの衝撃を受けたようだった。 ふと、何かが引っかかる。思い出そうとする前に、今日はこのあたりで野宿をしようとティアが提案し、思考が途切れた。 いつしか雨脚は弱まり、薄くなった雲の隙間から微かに、傾いた日が射している。 周囲の雲を染め上げる、その鮮やかな色彩は、出会った頃のレガートの――ルークの髪の色を思い出させて、ジェイドはとても不愉快になった。 壊したくなどない、と叫ぶには、少しばかり遅すぎたのかもしれない。 PR |
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